みんないってしまう。
まだ桜のつぼみは固いけど、春の匂いがした。
週末、山本文緒の短編集『みんないってしまう』を読了。
私は、普段、小説と言えばほとんど翻訳ものか、時々古典を読む程度で、
実は小説らしい小説は読んでいないのだが、
先週、斎藤美奈子の『L文学読本』(マガジンハウス)(サイン入り)を買ったので、
珍しく恋愛小説を読みたい気分になった。
山本文緒の小説は『恋愛中毒』を読んだことがあるくらいで、
今回で二作目。
エッセイと同じく、サラッとした文章だが、
描かれる女たちは、ドロッとした生々しさがある。
やはり女性の描写は女性作家の方が巧みなのか、
男性作家の描く女性より、ずっと現実味が感じられる。
恋に思い込みや嫉妬は付き物であるとはいえ、
狂気スレスレに暴走するかと思えば、
とても冷静だったりするところが巧いなあと思う。
『恋愛中毒』のヒロインは、かなり怖いのに、何故か少し爽やかでもある。
このヒロインは、愚かでも、盲目でもなく、
ただ、信じたいことを、強く信じようとしているだけに見えるからかもしれない。
女は、恋に狂っていても、
見たくないものから目を背けているだけで、
本当に現実が見えなくなっているのではないと思う。
この短編集には、日常と夢との境目にある、
ありそうで、無さそうな、小さな物語が収められている。
ストーカーみたいに好きな男を追いかけてしまう女や、
通いの喫茶店のウェイトレスに淡い恋心を抱く中年男、
財布一つで人生が破綻しそうになる女等々。
私は、表題作の「みんないってしまう」が一番気に入った。
読後、捨てたくても捨てられなかった何かを、
ようやく捨て去ることが出来たような気分になった。
悩んで、考えて、あがいて、しがみついて、地団太を踏んで、歯軋りして、
散々、苦しんだ末に、
それでも、結局、何とかなるようになるのだと、
ふと力が抜けたような、心地よい疲れに浸るのが良い。
今日の一言。
いくつになっても、恋は甘くて苦くて、みっともないのに、
それでも、次の恋をしたくなるのです。