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サマリタン

映画、本、毛糸もろもろ。

生きることは死ぬこと。

誰でも、癌にかかって亡くなった家族が一人くらいはいるはずだ。
私も、父方の家系は胃の癌が多いらしく、祖母は胃癌だった。

祖母に先立たれ20年、祖父は今年の冬の終わりに他界した。
癌ではなかった。
天命である。
よく生きて、よく死んだのだ。
最期を見取ることは出来なかったが、
伝え聞いた話では、自分の死を予感しているような準備をしていたようだった。

昨日、録画しておいたNHKスペシャル立花隆 思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む」
(2009年11月23日NHK総合放送)を見た。
立花氏の癌をきっかけとした、癌と言う病は、何ゆえに死の病であり続けているのかを問うドキュメンタリーである。
大げさなタイトルだが、内容は「癌研究の現在」と言ったところだ。

癌が、死だけでなく生命そのものとよく似た構造によって広がる病である、と言う。

正直、目新しい話とは思えなかった。
「謎に挑む」と言っても、
結局のところ、人はどう死ぬか、
と言う話に落ち着いてしまうという辺りも、
普通の結論ではないか、と言う印象を受けた。

が、癌という病が、特に立花氏の抱える多発性膀胱癌が、
常にの再発に備えた検査を受け続けることを考えれば、
立花氏の心情を察するに、この落としどころは、当然の帰結だと思う。

組織の再生を可能とするiPS細胞の働きが、癌化と紙一重であると言う。
私はこの話を聞いていても、やはり、新事実とは思えなかった。

生命の進化の歴史の中で、失われた一部の組織の再生よりも、
細胞の癌化防止を優先した生命の進化に関わる選択があったのでは、
と山中教授(京都大)は述べる。

実際に証明したと言う功績は大変に大きなものであるが、
生命の維持と表裏一体となって病は発生し、潜むものであると言うことに驚きはなかった。

トカゲの尻尾のように再生可能な組織は、
再生と同時に癌化する可能性を避けることが出来ない。
癌細胞は、ほぼ無限に再生しうる圧倒的な生命力を持っている。

フィクションではあるが、似た話があったことを思い出した。
TVドラマ『X-FILES』シーズン4のエピソードに、人の癌細胞を糧として再生を繰り返す男の話がある。
死んだはずの男が、死体安置所から自分の足で、帰宅することから始まる。
ストーリーは省くが、要点は、残された彼の組織を分析することで判明する特殊性である。
彼の細胞は、すべて癌化しているが、病気ではなかったこと、
むしろ、癌細胞によって、彼は失った腕や足、頭さえも再生することが出来るのではないかと言う推理。
このエピソードの科学的考察はさておき、
根源にあったのは、おそらく癌細胞は、幹細胞とよく似ている、むしろ同じ可能性を持っていると言う思想であろう。


私は幸い未だ癌という病を経験したことはないが、
二人に一人が癌にかかり、三人に一人が癌で死ぬ時代に、
私もまた癌になりうる、癌で死にうる一人である。

しかし、私は癌を治すと言うより、癌とどう生きるのか、がやはり課題となるべきだと思うのだ。
癌は、人類史上かつてない勢いで増えているかもしれないが、
同時に、人類は、個体の寿命が100年近く生きることを可能にした。
これだけ複雑な組織と器官を持った生命体を維持する上で、
癌は、避けられない病なのではないか。
いや、病と言うより、老いの現象の一つなのではないか、と思う。

癌を、死の隠喩にするのではなく、
長寿に含まれる生の一部であり、老いという変化の一つなのではないか。
激しく生きる力と、生命を維持する力の限界との、相克なのではないか。

人は死ぬ力を持っている。
人は死ぬ直前でも笑うことが出来る。
死を目前にして笑うことが自然な死なのかもしれない。

番組はここで終わる。
立花氏はすでに69歳。
若いとは言えないが、まだまだとも言える。
今後の報告も期待したい。

今日の一冊。

こころの旅 (神谷美恵子コレクション)

こころの旅 (神谷美恵子コレクション)

  • 作者: 神谷 美恵子
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2005/01
  • メディア: 単行本

 こころの旅は生きること。

 

追記(12/7)

コメントにいただきましたとおり、
癌に関して、私の認識の誤りに基づいた記述があり、
一部の方には大変不快な思いをさせてしまったことと思います。
陳謝させていただきます。
なお、記載については、訂正させていただきました。
失礼をお詫びいたします。