DVDレビュー『変態男』
冬めいたと思ったら、昨日から春めいてきました。
季節の変わり目ってやつです。
おかげさまで、私のヘルペスも木の芽時らしく芽吹いてしまいました。
っつうか芽吹かなくても良いのに。
さて本日のご紹介は上記のとおり、『変態男』 です。
ショッキングな邦題ですが、原題は「THE ORDINARY MAN(普通の男)」です。
ちなみにあわせて『パルス』、『赤ずきんの森』、『ナンバー23』を借りました。
全部サスペンスとホラーとか、オカルトと言うか、ホラーと言うか、
まあ、大雑把に言えば、人が普通ではない死に方をする話ばかり借りてます。
『変態男』は『変態村』第二弾のユーロホラーとの触れ込み。
ヨーロッパ圏とアメリカの、恐怖の源泉の違いがわかる。
ヨーロッパはアメリカに比べると、湿った感じがするのだ。
その辺は日本を含めた東アジアに近い感覚かもしれない。
ストーリーは、アマゾンによれば、
ごく平凡なセールスマンのジョージは、ある晩発作的に激怒して男を殺害する。
自分の暴力に怯えるジョージは、被害者の恋人を殺すことも逃がすこともできずに監禁してしまい…。
とある。
これは冒頭だけ。
主人公のジョージ(フランスだからジャルジュかな)は、
自分でも抑制が効かないくらい激しい暴力の衝動にかられる。
この冒頭の出来事の後、ヒロインでもあるクリスティーヌを車のトランクに監禁しているのだが、
徐々に、クリスティーヌの無力さに打たれたかのように、
まるで匿うかのように手厚く、しかし、決して逃がさないように、
クリスティーヌはジョージとの関係の中でしか存在しない人間になってしまう。
もちろん、行方不明者として警察も動き出す。
…と言っても、ビラを配ったり、捜査担当者の刑事は二人とも頭が悪そうだし、
あまり力は入っていないようだ。
どうやらクリスティーヌは恋人からDVを受けていたようだ。
…このあたりで、クリスティーヌがどうやらM(マゾ)なのではないかと観客も気がつく。
さて、クリスティーヌをトランクにしまいこんだまま、ジョージの日常は変わらない。
ジョージは妻との倦怠感にいら立ちながらも戸惑いながらも、
緩慢な日々をやり過ごしているだけのつまらない男だ。
妻が古い友人シモンと浮気していることにも気がつかない。
ジョージは巧妙な計画殺人や、殺人に快楽を覚えるような、「異常な男」ではなさそうである。
むしろ、平凡で「普通の男」にしか見えない。
この友人であり妻の愛人でもあるシモンというのもまたつまらない男で、
一応警察官なのだが、まったくジョージのしでかしたことには気が付いていない。
うっとおしい子離れ出来ない年老いた母と二人暮らしで、
友人の女房と寝るようなつまらない男だ。
所詮類は友を呼ぶ、なのだ。
幼い娘は可愛がりつつも、二人をつなぎとめる重荷になっていることに、
気付かない振りをしているような不安定な愛情に過ぎない。
変わらない日常は、物語が進むにつれ、少しずつ変化する。
妻の浮気は少しずつ大胆になっていく。
妻が夫の不審な行動に気がつかないのは、すでに愛情がないからだけではない。
自分もまた秘密を抱えているからだ。
もっと深い夫の秘密など気がつかない。
娘は、トランクの中のクリスティーヌに気が付いたことを叱責され、心を閉ざす。
クリスティーヌ自身の心情は具体的には描かれない。
自分がどうなるのか、おそらく不安で仕方がないはずなのだが、
自分の恋人を殺し、自分を閉じ込める男は、
どういうわけか、トランクの中で本を読めるように照明をつけてくれたり、
毛布をあてがってくれたり、
一日に二度のシャワーを浴びさせてくれたり、
食事の用意や生理用品まであてがってくれるという、
奇妙な優しさを知ることになる。
そして物語の終盤、惰性に満ちた夫婦にもついに限界が来たようだ。
すでに愛情も失せた夫に対する妻の罵りは非常に残酷で高慢だ。
ジョージは言い返してはみるものの、
自分の勤める家具店に泊まると言って妻から逃げてしまう。
この映画で唯一、幻想的なシーンが挿入される。
おそらくジョージの見た夢であろう。
家族団欒や愛し合う恋人同士の姿が次々と映し出される。
これこそが、普通の男であるジョージの夢であり、理想なのかもしれない。
翌朝、外には雪が積もっていた。
ふと、ジョージは路肩に停めた車の雪を見て、その寒さに気がつく。
あわててトランクを開けてみると、やはりクリスティーヌは凍死寸前であった。
ここで物語は大転換を迎える。
ジョージは妻に知られることを省みず、
クリスティーヌを抱きかかえて自宅に連れ帰り、温かい風呂に入れ、
何とか息を吹き返そうと躍起になるのである。
そして、クリスティーヌをベッドで休ませ、手厚く介抱し、
妻には、彼女を解放したら、出ていくことを告げる。
物語のクライマックスは冒頭と同じく、再びジョージの激しい怒りと暴力によって展開する。
妻の浮気に突如として気がつくと、すぐさま妻を撃ち殺すのだ。
妻の愛人シモンが訪ね、その惨劇に気がついたときには、ジョージはすでにクリスティーヌと雪原の中。
ジョージはクリスティーヌに自分を撃ち殺してくれと頼む。
そこに愛人が登場。
愛人はジョージを撃つ。
ジョージは倒れる。
そして、クリスティーヌが愛人に撃ち返す。
クリスティーヌは、撃たれたジョージに銃を持たせ、
自分は、シモンの乗ってきたパトカーのトランクに入るのだ。
彼女は、結局のところ、死なずにはすむ。
それどころか、彼女を監禁していたのはシモンで、
ジョージの妻殺しもシモンのせいになる。
これはお粗末な警察の捜査の結果というものである。
最後のシーンは見ものだ。
彼女はヨットに乗っている。
ジョージと!
そして、ハーバーから車に乗るとき、
彼女は、トランクへと自ら入るのである。
さて、これは一体何だったのか。
歪んだ愛の成就なのかもしれない。
やっと観た一本。
古典です。
それにしても、死霊に「はらわた」なさそうな気がする。
原題と邦題が無関係なのは、昔からのホラーの王道なのかも。