サマリタン

映画、本、毛糸もろもろ。

フランク・ティリエ『シンドロームE』(上)(下)

こんにちは。

お久しぶりの更新である。

この夏はたくさん映画館で映画を観たように思うが、

今日は読了したばかりの本について書こう。

 

フランク・ティリエ著/平岡敦訳の『シンドロームE』(上下巻)(早川書房

 

シンドロームE(上) (ハヤカワ文庫NV)

シンドロームE(上) (ハヤカワ文庫NV)

  • 作者: フランク・ティリエ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/11/25
  • メディア: 文庫

 

 

シンドロームE(下) (ハヤカワ文庫NV)

シンドロームE(下) (ハヤカワ文庫NV)

  • 作者: フランク・ティリエ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/11/25
  • メディア: 文庫

 

原著は2010年発表、邦訳が2011年12月発行。

 

新刊で本屋に並んだ時、すぐに気になったタイトルだったが、

当時、別の本を優先してしまい、すっかり失念していた。

最近、ブックオフで再会して、思い出したのであった。

 

あとがきによれば、ティリエはフランスのミステリ界では

若手の人気作家で、2002年以降、11作を発表しているようだ。

 

同じ言い回しが何度も出てきたり、

邦訳の際の誤字もあったりしたが、

読みやすい文章で、ぐいぐい引っ張ってくれるので、

上下巻でもあっという間に読了した。

 

なお、ティリエの『死者の部屋』(2005年)は、

『スマイル・コレクター』と言うタイトルで

映画化もされている。

 (このDVD持っているような気がする。)

 

スマイルコレクター [DVD]

スマイルコレクター [DVD]

  • 出版社/メーカー: タキ・コーポレーション
  • メディア: DVD

 

 

 

 

映画は、ホラー寄りサスペンスだったが、

それほどショッキングなシーンは無かったように思う。

なお、メラニー・ロランが演じた主人公の女性警官は、

今回の本でも主人公の一人である。

 

 

さて、本書のあらすじはAmazon先生のご紹介によれば下記の通り。 

急死した収集家のコレクションに眠っていた謎の短篇映画。

奇怪な描写が続くその映画を見たコレクターは、

映画が終わる前に失明してしまった。

映画の秘密を探るリューシー警部補。

だがその行く手には、何者かが立ちはだかる。

一方、五体もの死体が工事現場で発見された事件を追うシャルコ警視は、

死体から脳髄と眼球が抜き取られている事実に着目するが……

ふたつの事件を結ぶ糸があることを、二人はまだ知る由もなかった。

 

きたきた、謎の短編映画(゚∀゚)!!

セオドア・ローザックの『フリッカー、あるいは映画の魔』に続く、

映画を巡るサスペンスである。

 

フリッカー、あるいは映画の魔

フリッカー、あるいは映画の魔

  • 作者: セオドア ローザック
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1998/06
  • メディア: 単行本
フリッカー、あるいは映画の魔〈上〉 (文春文庫)

フリッカー、あるいは映画の魔〈上〉 (文春文庫)

  • 作者: セオドア ローザック
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1999/12
  • メディア: 文庫

 

 

 

フリッカー(以下略)』はかなり前に読んだきりなのだが、

ミステリとしては、答えは出ていなかったはず。

だが、映画、ムービーと言うより、フィルムの力に取りつかれた

若い青年が、どんどん狂気に取り憑かれ、

深みにはまっていく話であった。

本書では、映画の技術と、脳神経科学の分野から、

犯罪だけでなく、

戦争、ジェノサイドと言った集団的な暴力行為が、

視覚的経験に関係するのか、と言う研究が

事件解決の鍵となる。

 

映像は精神にどのような作用をもたらすのか?

 

暴力的な映像を観ることによって

観た者が暴力的になりうるのか?

 

それを利用することは可能なのか?

 

20世紀半ばの冷戦期に、

CIAが利用しようとしたという逸話を絡めて

謎と事件が展開してゆく。

 

詳細は本書を読んでいただくとして、

このようなテーマは

ホラーやサスペンスばかり好む私としては

とても身につまされるものがあった。

 

暴力的な映像を観るからと言って、

実際に暴力をふるうようになるわけではないが、

そうした映画ばかり見ていることは、

あまり好ましいとは言われない。

 

いわゆる「良い話」を観て感動しても、

誰もが「善人」になるわけでもなく、

恋愛映画を好んでいる人が、

実際に多数の恋人がいるとは限らず、

そもそも、恋愛をしているとも限らないのと同じであってもだ。

 

私たちは、映画には限らず、

テレビやゲーム、広告など、さまざまな形で、

生活のあらゆる場で、

自主的に、または、強制的に、映像に触れている。

 

サブリミナルが規制されているように、

映像には、人間の精神、判断力、

価値観に作用する力があるとされており、

映画を楽しむこともまた、

音声も含めた映像の作用によるものである。

 

スイッチ一つで、絶え間なく一方的に映像だけを送りだすテレビの方が、

分断した、テキストや音声が混在する映像が主流であるネットより

影響力が大きいのも当然だろう。

 

また、フィクションを楽しむには、

登場人物を自分に置き換えるだけではない、

もう少し複雑な想像力が必要となる。

 

「もし私だったら」しか思い描けない人には、

ホラーやサスペンスは辛いだけだ。

 

  ワイドショー的なニュースを好んで見る人は、

  「もしこれが私だったら」を楽しんでいるようにも思えるが。

一方で、「もし私だったら」が描けない人は、

人間関係による情愛や憎悪といった

心の機微を中心とした物語は、

白けるだけではないかとも言えるだろう。

 

好きな映画や楽しかった映画が、

どうしてなのか、

ちょっと考えてみるときに

こうした視点を考慮すると面白いのではないか、

と思った。

 

下手に、「人生の教訓」や「手本」にするより、

ただ、娯楽として楽しめばいいのだ、

とも思わないでもないが。

 

今日の一言。 

洗脳実験ネタでは、『es』が有名だが、敢えてコレを推す。

実験室KR-13 [DVD]

実験室KR-13 [DVD]

  • 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
  • メディア: DVD

正直びみょーだったけど。