読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

サマリタン

映画、本、毛糸もろもろ。

郷土菓子考察。

パンを語る 第18回 マトゥン(カフェデンマルク) 179円

朝、乗り換え時にカフェデンマルクに立ち寄る。
名前の通り、デンマルクのコンセプトは「北欧」だが、
メニューにはアンパンやメロンパン、スコーンもあるので、
何でもアリに見えるが、ベーグルやドーナツは無いみたい。

カフェデンマルクは、アンデルセンやリトルマーメイドと同じ
アンデルセングループブランドの一つである。
以前はデンマルクだったが、いつの間に「カフェ」デンマルクになっていた。
実は広島発の企業。
高級チョコレートで有名な「ジャン・ポール・エヴァン」とも業務提携している。
アンデルセンやリトルマーメイドでは、マーガレットクラブと言うポイント制度があるが、
カフェデンマルクは独自のポイントで、溜まるとイッタラくれます。
欲しい。

1.食べてみた所感
甘さ控えめのコンデンスミルク入りのパイかと思った。
ありそうで無かった王道路線の美味しさであった。
スコーンやマフィンと同じく、飲み物と合わせると、軽食になるかと。
日曜日のブランチにどうぞ。

2.マトゥンについて
カフェデンマルクのHPに記載はない。
アンデルセングループのHPで探してみたところ、
アンデルセンとリトルマーメイドの商品紹介にある。
アンデルセンでは「マトゥンタート」210円、
リトルマーメイドでは「マトゥン」179円。
デンマルクのマトゥンは、リトルマーメイドと同じ冷凍生地を使っているようだ。
紹介文によれば、ベルギーはフランダース地方グラモンの郷土菓子であり、
牛乳を乳清と凝乳に分離し、
凝乳に卵と砂糖を混ぜ込んだフィリングを挟んだパイのこと。
砂糖を加えて煮詰めたコンデンスミルクとは少々違うようだ。
酪農の盛んな地域ならではのペストリーであろう。
実際にベルギーで食べられているものにどれだけ近いのかは不明。

3.チョコレート、ネロ、パトラッシュ、ルーベンス、それ以外。
フランダースは、日本ではアニメ「フランダースの犬」でよく知られる地名であるが、
ベルギーの食文化については、チョコレートブランドで知られる程度ではないか。
そもそも、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグを合わせたベネルクス地方は、
中世以来、商取引が盛んな地域で、20世紀に至るまで、狭い地域ながらも、
ヨーロッパにおいて常に重要な役割を担ってきた。
EUが実現したのも、ベネルクス三国による経済協定から始まったとされる。
おおよそ、ヨーロッパでの紛争は、身内の喧嘩に過ぎない。
各国王室は姻戚関係で繋がった身内同士であり、
新教対旧教と言う、キリスト教の宗派の対立が重ねられてきたのである。
しかし、イスラムと言う他者を得ることによって、
ヨーロッパ統合は、机上の理念だけでない、現実化されるべき目標として認識される。
ついに20世紀、アメリカの登場とヨーロッパの相対的な地位の低下によって、
統一の具体化が加速する。
20世紀前半、二度の「世界大戦」と言う名の「ヨーロッパ内戦」を経験し、
ついに、世紀末にはマーストリヒト条約の批准が実現したのである。
これは、長い歴史でエポックメイキングとして位置づけられるのではないか。

ベネルクスは、日本では一般的認識として、
ルーベンスからゴッホブルーナにいたるまで、
多数の芸術家を輩出してきた地域として、文化的には関心が高い。
しかし、政治的経済的側面からの関心は、やはり低いのではないか。
ヨーロッパを、歴史と伝統、洗練された文化の豊かな地域としてみること
そのものは決して悪いことではないと思う。
けれど、ヨーロッパに大挙して押しかける日本人たちが、
より、広く多角的視点を持っていることを示さなければ、
ヨーロッパに住まう人々は日本人を、
ブランド好きの金づる以上には見てくれないのではないかと、
多少の憂いを感じるところである。

4.伝統とか郷土とか。
伝統料理、または郷土料理に対する感情は、
ナショナリズムやグローバリゼーションに対する感情と関連している。
「伝統的な作り方」や「手作り」と言った言葉は、ノスタルジックに使われるが、
こうして語られる「家族」や「伝統」は、ナショナリズムと親和性が高く、
「地元の食材」もまた、流行の「スローフード」と同じく
アンチグローバリゼーションの一つの姿勢である。

アンデルセンに限らず、この手のベーカリーの場合、
商品紹介のHPには、食品としての情報はほとんどない。
袋詰めのパンには欠かせない栄養成分表はなく、
一方で、発祥地地の具体的地名を掲げ、現地の写真を掲載し、
旅行ガイドブックのように、
今、我々の目の前に差し出された食べ物が
ある土地の伝統の一つであると言う物語を呈示している。
すなわち、食品が、観光の対象として商品化されているのである。

我々は、企業活動の一環として新商品を紹介されることで、
全く離れた日常生活とは無関係と思われる地域の郷土菓子を、
郷愁を込めて語り、賞味している。
それは、都市化の進展により、故郷の喪失感だけが残った
東京のような大都市で起きた消費行動の一つであろう。

「地方」「郷土」「伝統」「懐かしさ」
誰もが持ちうる感情であるからこそ、
共感を得易く、利用され易い。
他者の郷土料理は、私には新製品に過ぎない。
自分自身を俯瞰しないまま、
知りもしない、懐かしさに流されてしまわないように、
美味しく、楽しみたいと思うところである。

今日の一言。
アンデルセングループは、系列会社なのにHPが複雑。