サマリタン

映画、本、毛糸もろもろ。

DVDレビュー『エイリアン』

恐れ多くも畏くも、20世紀の大傑作SFホラーを
ワタクシメが語ってよろしいものなのか、
何千番も煎じられてきたお話をしたいと思います。


この映画以降、未知の生命体の造形は一変したと言っても過言ではない。
…はず。
だって、だって、
映画に出てくる凶暴なクリ―チャーの基本形がギッシリ。
まったく影響を受けていないタイプを探す方が大変なのである。

21世紀になっても、未だ人類は地球外生命体とは出会ったこともなく、
長きにわたり、多くの人が、その造形の予想図を描いては紆余曲折を経てきた。

見たことない生き物なのだから、正解もない。
だからこそ、万人が納得する
「エイリアン=異星」という形を作り出すことはたいへん難しい注文である。
この『エイリアン』という映画は、ギーガーデザインのクリーチャーが主役であり、
この造形の秀逸さが映画全体のクオリティを引き上げていると言えるだろう。

エイリアンデザインを手がけた、H.R.ギーガーのクリ―チャーは、
「人間」と「人間ではない何者か」の間にある、
嫌悪感をもよおすものであり、
表皮の粘液や、強い酸性の体液、腹を割って宿主を殺す習性、
ひたすらに凶暴な性質といった、
生命体としてのエイリアンが恐ろしくも、禍々しくなる。


ストーリーは例によって割愛。
というか、シンプルなのでこれ以上まとめようもないくらいまとまっている
映画データベースallcinema.netから引用させてもらいましょう。


大な宇宙貨物船に侵入した一匹の異星生物の恐怖。
地球への帰途についていた宇宙貨物船ノストロモ号は、
謎の救難信号を受けて未知の惑星に降り立つ。
そこには異星人の船があり、
船内には無数の奇怪な卵が存在していた。
卵から飛び出した奇妙な生物が顔に貼り付いた航宙士ケインを回収し、
ノストロモ号は再び航海につくが、
彼の体内にはすでに異星生物の幼体が産みつけられていたのだ。
ケインの腹を突き破り姿を表したエイリアンは脱皮を繰り返し巨大に成長、
一人また一人と乗組員を血祭りにあげていく……。


お腹を破って登場するシーンは非常に有名だと思うが、
そう何度も腹を破っているわけではない。
第一作目では一回のみ。

また、「脱皮を繰り返し…」とあるが、
何回くらいなのかは不明。
脱皮した皮を発見するシーンがあるが、それも一回のみで、
何度もしているとしたら、驚異的なスピードで成長していることになる。

もちろん、最終形態のサイズを考えれば、
何度か脱皮しているであろうと推測されますが、
それは観客に委ねられた解釈の一つであって、
決定事項ではないはずだ。

この映画はもともと単発で作られており、
シリーズ二作目、三作目とは切り離しても、問題がないはずであり、
むしろ、一作で完結しなければいけない。

よって、『エイリアン2』を見なければ、
本筋が曖昧になるようなことをしてはならないはずである。
その視点から考えると、シンプルなストーリーながら、
疑問が出てくる。

まず一つ目。
「未知の生命体からの発信を無視してはならない」=「その生命体の確保」なのか?
それとも、予め、そこに未知の生命体がいることを知っていたのか?

後者であるとすると、さらに疑問。

そもそも、ノストロモ号は民間の貨物船であり、
鉱物資源を採掘運搬する以上の設備を持っているとは思えない。
だが、会社(多分商社であろう)は
何故、貨物船を使って、エイリアンのサンプルを持って帰ろうと試みたのか。
兵器に転用することを想定しているのであれば、
訓練された人間を使うべきではないのだろうか。

偶然に出会ったわけではないのであれば、
たった7人、しかも2人は会社とは関係のない人間のようである。
このようなプロではないクルーに任せてしまうのは、投げ出しすぎではなかろうか。

だが、クルーのうち、科学担当者のアッシュはすでにある程度の予備知識を持っていた。
彼だけが鉱物資源の採掘や運搬だけではない指令を知っていた。
ダラス船長も、彼と一緒になるのは初めてだと言っていることから、
どうやら、本業は違うらしい。

アッシュは人造人間(もしくはロボット)であることを隠していた。
多分にエイリアン捕獲が彼の本当の任務である。

会社は、この「エイリアン」を、単に生命体の存在を確認する以上に知っていたようである。
接触しなければわからないと思われること、
船内でフェイスハガー(ケインの顔にとりついたエイリアン)の死体を調べているが、
脱皮をすることや、脱皮後、表皮がシリコンとなること、
純粋に本能のみで行動するということまで、
その時点で判明するものとも思えない。
予め調査してあったと考えた方が自然である。
ということは、事前に接触したことがあることになる。

そこまでわかっていたとしたら、
成体が、凶暴かつ怪力の大型生物だとは想定していなかったのであろうか。
クルーの生死は問わず、ということは、
以前にも、この生命体の捕獲で死亡した例があるのではないか、とも考えられるが、
それにしては準備不足過ぎるのではないか、と思う。

ボーナスの話で問答していたあたりを含めて、
現実の社会と同様に、会社側から従業員や契約相手に対して、
約束を反故にしたり、契約外のことを要求してくることは珍しくないのだろう。

会社が契約通りに報酬をくれるとは限らないことはさておいて、
クルーたちはあくまでも切り捨てられる可能性があることを知っているということは、
会社側から見れば、何をしでかすかわからないとも言えるわけで、
ラストでリプリーがしたように、
クルーが船を爆破させてしまうとは考えなかったのか。
全員死亡してしまったら、かなりの損ではないだろうか。

会社=儲けのために何かよからぬことを企てているという、
陰謀論のような構造が前提にあるとして、
かなり大雑把な企みであるように思う。

それにしても、過去に襲われた異星人が、
エイリアンそのものの造形があまりに似ているため、
同じ種族かと思ってしまうあたり、混乱の元だと思う。



二つ目の疑問。

エイリアンは何故攻撃してくるのか?

最初から敵意をむき出しに襲い掛かってくる。
最初、ケインが襲われるのは、卵に近寄ったことが原因であるが、
それ以降の攻撃には、あまり理由がないように思える。

そもそも、このエイリアンは、最初発見された卵の状態から変化するために、
他の生命体が必要となる時点で、繁殖する力は限られている。
自らの力で孵化出来ないことは、致命的だ。
エネルギー源が不明とは言え、自らエネルギーを作れないようである。
よって、卵の段階で休眠状態で待機していたとしても、
別の生命体の滅亡を伴う繁殖方法には限界があるのではないか。
共生の方向に進化が進んでいないことは、いずれ種の絶滅を意味する。
(ここでいう進化とは、前進という意味は含まれない。)

エイリアン自体が原始的な生命体とも思えないくらい、
複雑な器官をもった形態をしており、
猫は襲わずに、順々にクルーを襲うといったあたりも、
それ相応の知能があるようにも見える。

とすれば、相当の進化を経てきていると思われる。
よって、エイリアンは、ノストロモ号が立ち寄らず、
他の生命体と未来永劫接触がないとすれば、滅びるのみである。
繰り返しになるが、だとすれば片っぱしから殺して回るのは
種の保存という観点からは、相当に不利な結果しかない。

アッシュは「非常に純粋な生命体」と言っているが、
この凶暴さは「無駄」なのではないかと思われる。

地球という限られた範囲においては複雑な生態系こそが、
個々の種を超えた多様な種の繁栄を導いているが、
宇宙という限りなく永遠に続くような空間においては、
一つの種だけの世界が成り立ちうるのであろうか。


この大きな二つの疑問は、
エイリアンVSノストロモ号クルーという構図自体に関わるのだ。

何故、エイリアンに近づくのか、
何故、エイリアンは襲ってくるのか。

よくわからないからこそ、怖いのかもしれない。