サマリタン

映画、本、毛糸もろもろ。

映画レビュー『プロメテウス』

久しぶりのブログ更新。
今日は、先週IMAX3Dで観た『プロメテウス』にいろいろ思うところがあったので、
ブログにまとめることにした。

長文です。

概要及びあらすじはallcinema.onlineより抜粋。

 「エイリアン」「ブレードランナー」の巨匠リドリー・スコット監督が、
 「エイリアン」と同じ世界観を背景に描くSFミステリー超大作。
 人類の起源を求めて未知の惑星へと旅立った探査チームが目の当たりにする驚愕の
真相を、
 スケール感溢れるダイナミックな3D映像で描き出していく。
 主演は「ミレニアム」シリーズのノオミ・ラパス
 共演にマイケル・ファスベンダーシャーリーズ・セロン

 2089年、世界各地の古代遺跡からある共通するサインが発見される。
 科学者のエリザベス・ショウはそれを分析し、
 地球外知的生命体からの“招待状”と確信する。
 そして巨大企業ウェイランド社が出資した宇宙船プロメテウス号に乗り、
 人類の起源を探るべく“招待状”が指し示すはるか彼方の惑星を目指す。
 2093年、長い人工冬眠から目覚めたエリザベスの前についに目的の惑星が姿を現わ
す。
 彼女は一緒に旅をしてきた他の乗組員、
 公私にパートナーのホロウェイや冷徹な女性監督官メレディス、
 精巧なアンドロイドのデヴィッドらとともに未知の生命体を求めて調査を開始する
のだが…。

ストーリーの詳細は省く。

登場人物、『エイリアン』とのつながりを述べ、

瑣末ながら映画全体の評価を下げている、甘さを突っ込みたい。

 

○主要人物以外キャラ立ちが曖昧なキャラクターたち

上記に説明している通り、重要人物は、エリザベスとデヴィッド。
エリザベスは『エイリアン』シリーズのヒロイン、リプリーと、
デヴィッドは『エイリアン2』のビショップ(※1)と対になっている。

 (※1)
 『エイリアン4』のコールはちょっと違う気がする。
 コールは、人の振りをしていたし、
 行動原理が人間と同じだった。


エリザベス・ショウ

エリザベス役のノオミ・ラパスは、
美人だけど、美人じゃないような(十分に美人だけど)、
若いような若くないような(まだまだ若いけど)、
どこの国の人かわからないような(スウェーデン出身だけど)
雰囲気のある女優である。

小柄なところは、かつてのリプリーを演じたシガニー・ウィーバーとは対照的だが、
美人のようで美人でないようで、やっぱり美人だったり、
若いようでいて、落ち着きのある年齢不詳なところが、よく似ている。

3年前のリスベット役(『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』)(※2)の頃より
鍛えたのか、今回は、ややがっしり目に見えた。
そもそも、リスベットはやせっぽちの若いハッカー
今回のエリザベスはたくましく好奇心溢れる科学者なので
当然役作りも変わってくるが、
どちらも賢く逞しい女性の役であり、
今後もそのような役が続きそうな気がする。

 (※2)
 『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(2009)は
 日本でも劇場公開されたが、
 スクリーン数は少なく、
 2012年現在、日本ではノオミ・ラパスの知名度は低いと思われる。

エリザベスもリプリーも、とにかく逞しい。
危機に遭ってもやたらに悲鳴を上げて逃げたりしない。
憐憫を見せないが、仲間を見捨てたりしない。
湿度も温度も高い人物である。


メレディス・ヴィッカーズ


一方、シャーリーズ・セロン演じるメレディスは、
クールでドライな会社役員である。

ノストロモ号が民間の貨物船であったように、
プロメテウス号は、ウェイランド社という民間企業の船であり、
おそらく、エリザベスが調査のために費用調達したのであろう。

エリザベスと違いメレディスは知的好奇心で参加しているわけではない。
契約履行の監督官として同行しているに過ぎないのである。

メレディスは専門知識はなくとも権力があり規律と契約を重んじ、
雰囲気や気分には決して流されない。

メレディスのポジションは、「熱」属性のエリザベスに対する「冷」属性であり、
さらに同じく「冷」属性のデヴィッドが対になる。
アンドロイドのデヴィッドが、まるで人間のように振る舞うとき、
メレディスの非情が際立つのである。

ただし、もったいないことにメレディスは、
ストーリー上大きな役目を果たすことはない。
いなくても多分問題ないくらい空気だった。

ウェイランド社長と関係するシーンはそこそこ重要かもしれない。
娘だとしたら、彼女は一体何歳なのか。
彼女は、人間ではなくアンドロイドだったのか?

ただ、彼女がアンドロイドだったとして、
現時点では本編に影響はないように思われる(※3)

 (※3)
 ただし、メレディスが人間だったのか、
 アンドロイドだったのかは不明。
 リドリー・スコットのことだし、
 決めていないのではないかと思う。



デヴィッド

アンドロイドであり、みんなの世話役であり、
物語における狂言回しでもあったデヴィッドは、
不気味に愛想がよく、雑用をこなし、専門知識も持った、
まさにスペース・バトラー(※4)。

コールドスリープで超長距離を航海する時代になれば、
船の管理のために、交代で、誰かが起きていなければならないことになるが、
睡眠も食事も不要、ストレスもなく、病気にもならない、
アンドロイドは留守番役にぴったりである。
スペース・バトラーとは、アンドロイドに期待される役割そのものだろう。

デヴィッド役のマイケル・ファスベンダー(※4)は適役であった。
汗をかいたり、恐怖でおののいたりしない(当然う×こもしない!)
美貌のアンドロイドを演じ切っていた。

 (※4)
 マイケル・ファスベンダーは、インタビューで、デヴィッドの役割を、
 スペース・バトラー(宇宙の執事)と表現していた。
 http://news.livedoor.com/article/detail/6897598/


 (※5)
 最近はドイツ語表記のミヒャエルではなくマイケルで通っているようだ。

エリザベスの夢をしょっちゅう覗き見していたようだったところを見ると
情動に突き動かされることのないアンドロイドでありながら、
だからこそか、
親子の情や強い情熱を持ったエリザベスに対して
憧憬のような、恋慕のようなものを持っていたのかもしれない。

そして、ホロウェイを通じて、彼女に触れようとしていた。
もっと直截にいえば、孕ませようとしていたのかもしれない。


その他のクルー

その他、プロメテウス号にはノストロモ号に比べて、クルーが多い。
エリザベスの他にも科学者が3名。
船の操舵や、警備のためだけのクルーがいる。
金かけてるな、ウェイランド社

科学者でもあり、エリザベスの恋人でもあるホロウェイの他、
ミルバーン(モヒカン)、ファイフィールド(ヒゲ)(※6)、フォード(おかっぱ)も搭乗していたが、
あまり科学者らしい活躍はなかった。

専門家くせに、全く未知の惑星に、
到着早々タラップからヒャッハーイエーイと飛び出すんだぞ。
どう考えても軽率。
銀河鉄道999の客だってもう少し慎重だろうに。

星によって、重力や一日の長さ、生命体の確認も、
サックリ終わらせたのであろうか。
近づくまで気がつかない、計測できないこともたくさんあろう。

強力な磁場が発生したとか、
実は、おっかない生き物が住んでたとか。
SFやホラーではありがちな、軽率さ、不用意さが気になった。
このあたりのB級感にガッカリさせられた人も多いだろう。

それ以外は、種付け要員及びエグい死に様要員として終わった。

 (※6)
 ファイフィールド役のレイフ・スポール、
 どこかで見たことあると思ったら、
 『ホット・ファズ』のダメ刑事アンディであった。
 ダメっぽいな~と思ったのはそのせいかも。


この航海の発案者であるはずのエリザベスが
そもそも何の専門家なのかよくわからなかった。
発掘作業をしたり、DNAを採取したりしていた。
古生物学や考古学、発生学の知識もあるようだ。
臨床医学の知識もありそうだった。

どちらにしろ、メインの3人以外は、一見すると「濃い」が
実は、見た目通りのステレオタイプばかりである。

チャラ男のホロウェイは、エリザベスより専門分野が不明。
お酒飲んだりビリヤードをしたり
エリザベスといちゃいちゃしていていたかと思ったら、
急に具合悪くなってしまい、科学知識はほとんど披露されず。

ミルバーンは「俺は友達なんて作らない」と言いつつ、
結局はファイフィールドと一緒に行動してるし、
ファイフィールドは、謎の生物に、
準備もせずに、近寄り触ろうとした挙句に襲われている。

唯一、フォードだけは、エリザベスと一緒に作業しているシーンがあったが、
電極刺してキャーキャーやったくらいだ。

スイッチ切れないなら、抜けばいいのに。

ほか、船長や操舵要員のクルーも、キャラがぼんやりしている。
荒くれぶっているが、本当のチンピラというわけでもなさそうだ。
最後に突然、まさかの体当たりかますが、
そこまでの使命感を感じるエピソードはなかった。


○『エイリアン』(1979)へ続く道

『プロメテウス』は『エイリアン』(1979)の前日譚にあたるストーリーである。
いわば『エイリアン・ビギニング』(※7)だ。

 (※7)
 最近、そういう映画が多い。
 少し前だが『カジノ・ロワイヤル』や『バットマン』のような
 定番のヒーローが、ヒーローになるまでのお話だったし、
 これから公開される『オズ』や『ホビット』も、
 ヒット作の前日譚ものである。


この前提が、周知徹底されていなかった(敢えてしなかった?)のか、
ウェブで見た限り、知らなかったという感想が多いように見受けられる。
知らなくても良いようには出来ていたと思うが、
ちょっとは知っていた方が面白かったであろう。

私が『エイリアン』を初めて見たとき、
詳細はともかくエイリアン怖いとしか覚えていなかった。

『プロメテウス』観賞前に『エイリアン』のブルーレイ(※8)を見直したが、
シンプルなストーリーとまがまがしい美しさが素晴らしい。
SF映画であり、ホラー映画でもある、エポックメイキングな作品であったと再認識。

 (※8)
 ブルーレイになると映像がパキッとしてコントラストが明確になるので、
 SF映画とブルーレイは相性が良いように思う。


SFというジャンルは何はともあれ設定が重要である。
実際の科学知識より、科学とフィクションの境目を
出来るだけ滑らかにつなげる演出が問われる。
舞台は宇宙でも、他の星でも、、「現在」と地続きでなくてはならない。
コールドスリープや、人造人間(ロボット?アンドロイド?)のような、
まだまだ現実にはありえそうにない技術を、
さも、あり得そうな感じに描かなければならない。
そのために、ディテール、絵、雰囲気が大切なのだ。

かつて『エイリアン』の造詣と世界観をデザインした
H.G.ギーガーのセンスは、
この世のものではないような雰囲気を醸していた。

ノストロモ号の直線的で無骨な外観に対して、
不時着した星の遺跡の様子は外部たる宇宙を感じさせた。

同じくSF映画の金字塔たる『2001年宇宙の旅』のモノリスも同様だが、
遺跡に眠るスペースジョッキーの造詣は、
宇宙が、「フロンティア」という、開けた冒険の世界ではなく、
まったくの音も光もない無限の漆黒かもしれないという、
畏怖の気持ちを思い出させるものだった。

『エイリアン』を見たときの恐ろしさは、
反射的な恐ろしさとは違う。
種の存亡を脅かされるような、生存をかけた恐怖である。
理解しあうことなどありえない、
圧倒的に滅ぼされてしまう側に立たされた黙示録の世界だ。

SFは現代を描くものだ。
2012年現在にあっても、
『エイリアン』の世界はやはり恐ろしい。
しかし、『プロメテウス』はそこまで恐ろしくない。
『プロメテウス』は、良くできた映画だと思うが、
『エイリアン』と比べると、
脚本の都合なのか、展開に無理があるように感じる。
登場人物が多すぎる。
ご都合主義が多い。
複雑さではなく面倒な細かさ。
おそらく一つ一つは小さいのだが、
細部の詰めの甘さが、
全体の鈍さの原因ではないかと思われる。


そういった意味ではデヴィッド役のマイケル・ファスベンダーは適役だった。
(大事なことなので2回言いました)


○エイリアンの起源と発生

そもそも、人類の起源どうこうというより、
一番の関心はエイリアンの起源である。
キャッチコピーが間違っている。
ストーリー自体はシンプル。
時系列順のエピソードをつないでいるだけだが、、
細かいところで引っ掛かってしまった。

要所要所の突っ込みどころが、映画全体に残念な印象をもたらしているように思う。

順を追って箇条書きにしてみた。


・黒いドロドロを飲み干すと、白い人はバラバラに崩壊するようである。
 突然ほぼ全裸で現れ、人身御供方式でDNAを拡散した模様。
 作れるから、作ったのかもしれないが、
 人間はアンドロイドを作るために、人身御供はやらないと思う。

・プロメテウス号の着陸から下船があっという間で、
 ちょっと落ち着け。

・よくわからないものをペタペタ触るのは感心しない。

・モヒカンうるさい。

・モヒカンより探索ロボットのほうがずっと役に立ってる。

・ピラミッド内で拾ったでっかい頭、重くないのだろうか。

・黒い壺をずらっと並べてあった部屋(?)はどうやら備蓄庫だったようだが、
 真ん中にどでかい頭部を飾るセンスがもう…

・あのぬるぬるしたウツボみたいなヤツ(女性器のような頭の生物)に
 襲われると、なんで凶暴化したり、変身したりするんだろ?
 毒があるのか、寄生しているのか。

・白い人と人類は同じDNAらしいが、
 だから人類の起源=「白い人」にならないのでは。
 白い人と人類が同じ起源を持っているのかもしれない。

黒酢(例の黒いドロドロ)を飲んで、ホロウェイは変異したように見えた。
 最初の白い人は、バラバラになっていたのに、
 人類と白いヤツは同じDNAということだが、効果は違うらしい。
 「個人の感想です」ってやつか。

・ホロウェイが、知らずに経口摂取した後、種つけに至るまで短時間のようだが、
 精子が変異したのか、精子に含まれていたのか。

・つか、中出しか…

・エリザベスは子どもを産めないらしいが、
 卵子と結合したわけではないということは、
 お腹で勝手に育っていた例のアレは寄生していただけなのか。

・エリザベスのお腹から強制排出されたでっかい蛭みたいなアレ、
 ほんの数時間であっという間に大きくなっていた。
 植物の種子のように栄養分を持参しているわけでもなさそうだが、
 どうやって大きくなるんでしょ?

・寄生して宿主から栄養を吸い取っていたのだとしたら、
 姿形が大幅に変わったのは単なる変態ってことか。

・寄生生物は宿主を殺してしまうのは損なんですけどね。

・お腹から引っ張り出されても、勝手にぐんぐん育っていた。
 だから、栄養源はどこから…。
 お腹すいてたみたいだけどね。

・お腹の中で暴れまわってたけど、腹破るよりも、
 ふつうに入ったところから出てくる方が良いよね。

・開腹後、どうやって縫合するのかと思ったら、シンプルにステープラーであった。
 あれ、抜糸(つか抜針)必要なんじゃないのかな。

・あれだけ大きく開腹した後に、走り回るのは感心しないなあ。

・つか走れるの?

・ファーストコンタクトで一生懸命
 「ナイスチューミートゥー」ってやってるときに、
 いきなり頭ちぎるなんて失礼千万にもほどがあるが、
 あれ、通じた上で襲ってるの?

・デヴィッドの知っていることが多すぎ。
 他にも船があるとか、いつの間にか船操縦できるとか、

・社長、諦め悪いみたいだけど、
 「エンジニア」に会う=寿命延びるとは、
 誰も言ってない。
 自動車は作れても、永遠に動く自動車は作れないだろう。

・白い人たちは、パンイチ(パンツ一丁)。
 雌雄同体なのか、女子らしき姿はないけど、
 こいつらの文明度って高いのか高くないのか

・つまりこういうことなのか(※8)

 (※8)

  prometheus-origin-poster.jpg

  http://cia-film.blogspot.jp/2012/06/movie-news-tidbits-and-more_25.html

・エイリアンが寄生するのは、人類を滅ぼすためなのか。
 だとしたら、効率悪すぎだろ。

・人類の方がたちが悪いってことか。

以上、細かいところはあげればきりがないが、
十分にワクワクさせてくれた良作だと思う。
続編も製作されるようだが、
続編を待って、評価をしたいところである。

 

今日の一言。
ファーストコンタクトがあっても、きっとその瞬間はわからない。

せめて話の通じる相手がいいな。

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